プラトン『ティマイオス』メモ

プラトン『ティマイオス』((プラトン全集 (岩波) 第12巻) を読んだときのメモ。

目下『国家』を読解しているところですが,一応,2014年 (平成26年) のお盆休みの課題の1つとして図書館に通いつめて読みました(笑)。

本対話篇は,『国家』の対話が行なわれた翌日という設定 (と言われているわけではありませんが,明らかでしょう) で,ソクラテスがティマイオス,クリティアス,ヘルモクラテスという3人と会い,前日にソクラテスが語った国家についてそれぞれ語っていくということになります。その前に,クリティアスが祖父に聞いたという昔話…アテナイにこそそういう国家がかつて存在していたとか,アトランティスという島が昔存在して隆盛を極めていたなどというエジプトに伝わる言い伝え…を語り,その後まずは天文学に詳しいティマイオスが「宇宙の生成から始めて,人間のなりたち (自然の本性) のところで話を終えてもらう」(27A) ということでティマイオスがそういうことをほぼ一方的に語っていきます。

この『ティマイオス』は,自然科学に通じるような内容を扱っているという点で異色だと思います。例えば万物は火,空気,水,土から構成されるというようなことも結構な筋立てで言われます (火は正四面体,空気は正八面体の要素で構成されているとか)。しかし,基本的な考えとしては,宇宙というのは「善なる創造主」が作ったということで,プラトンとしては,そういう万能の主がある思わくをもって (→「善のイデア」に基づいて?) 宇宙・世界・人間を作ったということになると思います。他方で,当時は原子の存在などは観察できていなかったわけです (原子論などは当時もあったようですが)。つまり,そういう意味で現代の目からすると,物質や生物の成り立ちについては「合目的的」な内容に始終していると感じました (「合目的的」というのは解説で使われていた言葉ですが,これに尽きると思いました)。半面で,天体観測については当時も行なわれていたようで,宇宙とか惑星については当時もかなり知見があったんだなと思わされるところもありました。

なお,アトランティス自体は,同じ全集12巻に所収されている『クリティアス』の方が詳しいようです。

以下は読書時のメモです。

ソクラテス「それでは,わたしがあなた方に,どんなことについて話してもらいたいとお願いしたか,その全部をおぼえておいででしょうか。」
ティマイオス「おぼえている分もありますよ。しかし,おぼえていない分は,当のあなたがここにおられるのだから,思い出させてもらいましょう。いや,それより,面倒でなければ,あの話をはじめから簡単に,もう一度くり返してみてくれませんか。そうすればわれわれの側としても,記憶がもっと確かになるでしょうから。」
ソクラテス「そのようにしましょう。昨日のわたしの話の要点は,国家について,それがどんな体制のもので,どんな成員から構成されるなら,最上のものになるだろうかという,わたしの所見をお話したものだったと思いますが。」(17B)

ということで,ソクラテスがティマイオス達に,なにかをお願いしたようですが,それは「昨日のソクラテスの話」に関することのようで,明らかに『国家』の翌日という設定なのが読み取れます。この後,具体的に『国家』の要約が行なわれます (但し,「哲人政治」やイデア論的な内容は語られなかった)。
そしてソクラテスは,「模倣を仕事とする」作家でも,ソフィストでもない人として,ティマイオス達に,ソクラテスが語った国家について語ってもらおうとしたようです。

クリティアス「すると,神官のうちでも大そう年とった一人が,こう言ったというのである。『おお,ソロンよ,ソロンよ,あなた方ギリシア人はいつでも子供だ。ギリシア人に老人というものはいない』と。」(22B)

ここから暫くは,クリティアスの祖父 (も,クリティアスというらしい) がソロンに聞いた話を,クリティアスが語ります。正確には,クリティアスの祖父が,その父ドロピデスから,ソロンの話として聞いた話をクリティアスに話した内容,ということのようです。そしてソロンも,このようにエジプトの神官に聞いた話と。
つまり,エジプトの神官→ソロン→曽祖父ドロピデス→祖父クリティアス→クリティアス,と伝承されてきた話ということになります。こういうややこしい設定がプラトンは好きですね(笑)。
この後,「エジプトではナイル河等の自然に守られていて過去の記録が残っているが,ギリシアでは大洪水が何度もあって記録されることもなかった」というようなことも言われます。

クリティアス「『かつて,水による最大の破壊に見舞われる以前に,現にアテナイの国であるところのあの都市国家が,戦争にかんしても最強であれば,またあらゆる面で卓抜した法秩序を持っていたことがあるのだ。そして,その国家の遂行した偉業も,その国政も,およそこの天の下でわれわれの耳に達したあらゆる事例のうちで,最も立派なものだったと言われているのである』。」(22C)

伝承の話が暫く続きます。アテナイにかつて,理想的な都市国家が存在していたそうです。なおメモにはありませんが,これは9,000年前の話と言われています。現代からプラトンの時代が2,400年ほど前なので,まあ相当前だなあという感じです…電気,半導体,コンピュータ,インターネット,携帯電話等を代表する現代の文明と,プラトンの時代との時間的な差の更に4倍以上も昔の話で,そのどこかで今のような文明が栄えたらどうなっていたのだろう?とか思ってしまいます。

クリティアス「『文書は,どれほどまでに大きな勢力の侵入を,あなた方の都市がかつて阻止したかを語っているのだが,これは,外海アトラスの大洋 (大西洋) を起点として,一挙に全ヨーロッパとアジアに向かって,暴慢にも押し渡って来ようとしたものなのだ。』」(24E)

クリティアス「『さて,このアトランティス島に,驚くべき巨大な,諸王侯の勢力が出現して,その島の全土はもとより,他の多くの島々と,大陸のいくつかの部分を支配下におさめ,なおこれに加えて,海峡内のこちら側でも,リビュアではエジプトに境を接するところまで,またヨーロッパではテュレリアの境界に到るまでの地域を支配していたのである。』」(25A)

アトランティスが出てきました。このアトランティスは相当強大な国家?だったようです。
さて現代,アトランティスと聞くと,「なんかそういうファミコンのゲームがあったなあ」というのが僕の第一感でしたが (笑),伝説上の大陸というイメージがあると思います。それが,プラトンの著作に出てくる,というこの何ともいえない唐突な感じが嬉しいです。
今年 (2014年) になって,「アトランティス大陸が発見された?」というニュースが NHK でありましたが,その時に「プラトンの著作に出てくる」というようなことは言われていました。

クリティアス「『しかし後に,異常な大地震と大洪水が度重なって起こった時,過酷な日がやって来て,その一昼夜の間に,あなた方の国の戦士はすべて,一挙にして大地に呑み込まれ,またアトランティス島も同じようにして,海中に没して姿を消してしまったのであった。』」(25D)

…ということで伝承は,アテナイの理想国家もアトランティス島も地震と洪水で沈没してしまった,ということになるのですが…本当に地震・洪水でこれらが滅び,かつその伝承がエジプトに残っていた,ということが事実ならば,奇跡だなと思います。地震と洪水でそんなに広範囲が滅亡してしまうというのも想像はしづらいのですが,何せ10,000年以上の時の中では自分が生きてきた高々何十年の常識を超越する何かがあっても不思議ではない,という気もします。
でもまあ,きっと作り話なんでしょう(笑)。プラトン自身が作ったかどうかは措くとして。

クリティアス「さて,ソクラテス,老祖父クリティアスがソロンから聞いたままに語ってくれたことは,簡潔に言えば,以上君が聞いた通りだ。ところで,君の話のあの国家とその成員のことだが,それを昨日君が話してくれていた時,わたしは,ちょうどいま言ったことを思い出して驚いていたのだ。…君の話が大部分,ソロンの言ったこととぴったり一致しているのに気づいたからだ。」(25E)

伝承の話が終ったところで,『国家』でソクラテスが語った国家 (と思われる) と,アテナイの理想国家がおおむね一致していたとクリティアスは言います。
これが本当なら,そういう国家があったことも,その国家を伝え聞いていたクリティアスが『国家』の舞台にたまたま同席していたことも,さらにソクラテスがその国家について知らなかったことも,すごい偶然ということになると思います。
くどくなってしまいました。まあ信憑性についてはどうでもいいですね。当時プラトンがこれを書いた,というだけのことです。

クリティアス「いやほんとうに,君,子供の頃に学んだことは驚くほど記憶に残るという諺の通りだねえ。何しろわたしなんか,昨日聞いたことだと,その全部を記憶に呼び戻すことが,さあできるかどうか,あやしいと思うが,ずっと以前に聞いたあの話のほうは,その一つでもわたしの記憶から落ちているとすれば,それこそまったく不思議だろうからね。」(26B)

これは特に内容とは関係ないのですが,たまたま僕も読んだ当時に昔のゲーム (FF2) をプレイしていて,小学生の時のゲームにもかかわらずかなり深くストーリーとか街の名前とか登場人物とか音楽とかをとてもよく覚えているのに,反対に最近のゲームについては全然覚えてないな,と思い実感がありました。

クリティアス「われわれの案では,こういうことになったのだ。まずティマイオスだが,この人はわれわれの中で一番よく天文学に通じていて,万有の本性を知ることを,特に自分の仕事にして来た人だから,最初にこの人に,宇宙の生成から始めて,人間のなりたち (自然の本性) のところで話を終えてもらう。」(27A)

この後の対話の展開を,クリティアスがリードして,まずティマイオスに宇宙の生成や人間のなりたちについて話してもらうことになりました。

メモは以上。
…実はこの後こそが『ティマイオス』の主要な部分で,ティマイオスが延々と,創造主の話,天体の話,元素?の話 (→火,空気,水,土から万物ができている) といった自然の話や,味覚や嗅覚等の感覚や臓器,病気,身体と魂,男女といった人間の成り立ちの話が語られますが,そんなにメモしたい部分がなかったようです。
また全集では補注がやたら充実しています。これは主に『ティマイオス』の具体的な内容をどう解釈するかということや,当時の物質の成り立ちに関するピュタゴラス派,エレア派等の学説とか色々あったようですが,殆ど読み飛ばしました…。
総じて,研究者としては解釈の面で重要でしょうが,読み物としては,最初に書いたように,合目的的に,つまり善のイデアがあってそれが全てのものを支配していると仮定して宇宙や人間を説明した,という感じです。電子顕微鏡によって原子が実際に観察されるまでになった現代の科学の視点からは,火が正四面体,空気が正八面体,土が正六面体,水が正二十四面体で構成されている…といったような説を元に言われる話は直観に反する内容で,悪く言えばオカルトっぽいのです。
勿論,だからといって『ティマイオス』の価値を損ねるものではない,と思います。むしろ逆で,自然に対する好奇心や尊崇の念と,当時なりにあらゆることの整合性が合うようにと考えたその情熱というものはひしひしと感じます。今とは違って,自分たちの知ることのできる範囲というのは極めて限定されている,ということの自覚もあったはずで,だからこそ単なる空想ではなく,自然への信頼というのは今よりあったのかもしれません。
それを承知の上で,やっぱり退屈なのは事実です(笑)。読む前は,比較的話題に上りやすい (と思われる) この対話篇がなんで文庫化されないのかなあ,と思っていたのですが,読んでみて分かった気がします。尤も,本篇だけではなく後期対話篇 (『ソピステス』とか『パルメニデス』とか) 共通ではあるかなと思います。やはり難解なのです。

ということで少し順番を変えての夏休みの課題でした…。ちょっと時間があまりなかったので慌てて読んだ感もあり,もう少しじっくり読んでみたいという感じもします。

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